ヴェルナー・ヘルツォークの1982年の作品。
極めてわかりやすい作品で、主人公は登場して即座に、自分の願望を語る。南米のアマゾンの奥地にオペラハウスを作りたいという願望。そしてその通りに行動するという物語。ヘルツォークの他の作品に比べてもシンプル。いや、他の作品もけっこうシンプルで難解な感じでもないのだけど。
オペラハウスを作ろうとする。その通りに行動していくのだけど、徐々にそれがズレていく。その点が面白い映画だろう。
南米の奥地に西洋文化の権化のようなオペラハウスを作るという不穏な侵略行為を、無邪気な良い人タイプの主人公は、どうも善意で為さそうとするのだけど、南米のアマゾンの毒っ気というか、そのジャングルに漂う呪術的雰囲気というか、何かそのようなものにやられて、オペラハウス建設の夢はいつのまにか消えて、巨大な船を山の頂上に登らせようぜ、という願望になぜだか変わって。
フェリークラスの船を人力で丘に上げて、山を登らせる。実際、それをやり遂げる。そこまでの潤沢の予算もなく(何せ作家の芸術的映画であるはずだから)、当然、CGもなく、そんな中、巨大な船が山を登るという映像を撮ったり、滝に落ちて転覆しそうになった船を撮ったり、派手なスぺクタルに満ちている。けっこう凄い映画。
なぜか船を登らせるのだけど、ヘルツォークは「移動」するシーンを撮るのが上手いというか、何かとても印象的な映像を撮る人のようで。
「ノスフェラトゥ」という作品は主人公の旅する姿、移動するシーンだけが印象的。代表作の「アギーレ神の怒り」もただアマゾンを移動するだけの映画であるし。
主人公が移動のために乗っていた船を、祭壇に祀るように山を登らせようとするのは、監督のフィルモグラフィ的に理に適っている気もする。だから唐突な展開ではなくて、必然性が十二分にあり、感動的。